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empower channel  #1 伊藤楓 さん インタビュー書きおこし(前編)

empower channel  #1 伊藤楓 さん インタビュー動画書きおこし

※インタビュアー:わねざきいくえ(NPO法人アコア) 

 

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― 自分について ―
 
楓) もう子どもなのになんでこんなことまで考えなきゃいけなかったのか?っていうのが…
私は大人になってから、本当にすごく強く思っていて。小さい子が社会のことを真剣に考えなきゃいけないっていうのは、もう異常だろと。
それはもう大人が考えろよ!って、ものすごく声をあげて言いたくて、自分が大人になったから私はその言葉を社会に伝えます!っていう決意ができたので、今喋ろうと思いましたけど…
本来は大人たちが声をあげてよ!って、小さい5歳とか6歳の子供がおかしいと思いながら苦しんで生きるなんてちょっと異常な社会だよ?って。
ものすごくずっと思ってきたんですけど、誰も助けてくれないんですよね、大人はもうしょうがないよで片付けちゃうんで…
 
わ)ずっと、しょうがないよね、っていう言葉を聞きながら、片付けられちゃう感じ
 
楓) それは諦めにつながっていって、もう誰も人を信用しない。誰とも喋らない。口をきかない。誰にも自分の思いを伝えない。ってなると、本当に助けて!っていう言葉が自分が口から出てくる事ってなくなってしまうんですよね。
消失してしまうと言うか、そういうことを考えるって言うこと自体も消えてしまうんですよ。
本当は助けて!って言いたいんだけど助けてって言えない…もう、すごく問題があるんじゃないかとずっと考えてきた。
 
わ)消失っていうことは、消されてしまう、消えていくってことだね。
 
楓) そうです。それがもう絶望に変わっていくと、もう、思考停止と絶望に変わっていく。
思考停止と感情の喪失と、もう世の中全てが全部敵に見えてしまうとか、もう全員大っ嫌いだとか、子供だったらもうみんな嫌いだ!っていう風に言う子供もいると思うんですけど。
ただ単に(悪い事をした時に)「ごめん」がいえないだけで、(職員に)感情も全て奪われて、もうお前は頭がおかしいって洗脳されて、(医師に)色んな病気・病名をつけられて、大人と喋らないっていうのは、「この子頭がおかしい」って言われて。全部大人が決めてきた。
決めつけたんですよね。子供の声は誰も聞かないっていう部分がものすごく問題であって、なんで誰も聞いてくれないの!って。(あなたは)カウンセリングをしてるじゃない、先生達も聞いてくれるでしょ?って、言われても、本質の部分はみんなスルーなんですよ…
 
わ)聞いてくれないっていうのは、どういうこと?
 
楓) 喧嘩とか、そういった目に見える問題が起きた時に大人は「どちらも悪い」っていう風に、「あなたも悪かったけど〇〇くんも悪いよね」と、どちらも悪いっていうふうに位置づけてしまうんですけど、原因って必ずあって、その原因の物事や原因の解明を大人はしてくれないんですよね。「こういう環境にいて、こういう問題があったから〇〇くんは暴力を振るってしまうんだ」っていう問題解決もしないし…暴力を受け続けて逃げてきたのに、また更に暴力を受けた時の子供のケアっていうものを全くしないし、子供たちに聞き取りの調査もしない。
だから〇〇も悪いし(私も)悪いしどちらにも原因があってこういう暴力が…
加害行為っていうのが…意地悪をする(ことはダメ)なんだよとか、そういった、ちょっとあやふやな言葉に変換されて子供達を納得させてしまう。
 
子ども達は納得していないんだけど納得するしかなくて。しつこく「こういうことをされるのは嫌だ」って訴えても、全てがしょうがないよね。 ここはお家ではないから、あなただけの意見を聞き入れることはできない!っていう風に職員にもいわれてしまうから、あなたが我慢しなさい!○○くんも我慢してるんだから、(全ての問題を)あなたも我慢しなさいとなる。
 
 子どもたちはうまく大人に伝える方法が分からない。反抗的な言葉を言えば自分が怒られるし、相手が悪いのになぜか自分の怒られる?って言う悪循環にはまってしまう。
子どもは「違うのに、違うのに」って思っていても、それを表現することができないから。
でも本来だったら大人が「こうだったの?ああだったの?」って、細やかな質問っていうものがあったり、子供が何を言いたいのか聞こうとしたりするんじゃないのかと。
 
 
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― 家族のこと ―
 
楓)私の家庭は10人兄弟で、母親と父親がいたんですけど、反社会に籍を置く両親で、薬物依存とか、アルコール依存とか、ギャンブル依存とか、すべての依存症があるっていうぐらいもうダメな両親で。で、子供たちが暴力を振るわれて生活をしているような環境。
 
覚醒剤とかお酒アルコールとか喫煙とかタバコもそうだし、小さい2・3歳の子供の時からそういう環境にずっと置かれていたので、それが当たり前の生活になって、人に暴力を振るっていうことが当たり前の生活になっていたので、10人兄弟で過ごしてきましたけど、全ての兄弟がみんな暴力的で兄弟喧嘩も激しくて。
 
親は常に家の中で暴力とか暴言とか夫婦喧嘩をしていた。包丁が飛び交うぐらい殺人が起こるんじゃないかっていうくらい、殺し合いのような喧嘩が毎日あって、その中で、弟が父親の虐待によって亡くなってしまうんですけど…それがきっかけで私は児童相談所に一時保護されて…
 
その前も、何度も児童相談所に保護されていたんですけど、そこは「幼稚園だ」って言われていたから幼稚園に行く感覚でいつも泊まりに行っていて、何故かまた戻されてまた暴力を振るわれて…っていう生活を繰り返して、最終的にその弟が亡くなった事件があってから両親が逮捕されて、覚せい剤とかもやっていたので、服役することになったんですけど、兄弟は全部バラバラで、児童相談所(一時保護所)に入った時は姉と弟と一緒に。妹とかも一緒にいたんですけど、施設の措置が決定が決まってからは家族全員兄弟もバラバラになって…
 
その理由としては兄弟が多いから、全員一緒に同じ施設に入れないっていう説明があったので、(自分は)また幼稚園に入るんだと思って、私は一時的なものだと思っていたから、何ヶ月間かすればまた家に帰れるんだなぁ!ってずっと思っていたんですけど、結局十八歳まで施設から家に戻ることはなくて…
 
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 ― 施設について ―
 
楓) 私が 、もう少しで17歳ぐらいの時は反抗的な子どもで、色んな社会のことが分かってきたり施設の仕組みがわかってきたり、虐待がわかってきたり、いろんなことが分かってきた時に、全てに反抗したい気持ちになって、悪いことばっかりものすごく繰り返していたら、施設のルールを守らないとか、万引きをしてしまうとか、他人に暴力を振るってしまうとか、いろんなことがあって、児童自立支援施設っていうところに入れられてしまったんです。
 
児童自立支援施設は、少年院と鑑別所とか色々犯した子供達が入る施設があるんですが、そこに入る一歩手前っていう部分で、施設職員と同じで、その職員もそうでしたけど、子供達に、悪いことしたら少年院に入れるっていう脅しをかけてくることがものすごく多くて、少年院っていうのは刑務所と同じ。大人の刑務所と同じことだから何年も出れられない!とか、いろんな脅しをかけられていても、どうしてもそれに反発するように結構悪いこととか、ルールを破る事をしていて。
そこで自立支援施設に入るんですけど…
 
その、児童自立支援施設っていうのは、ものすごく収容所のような(イメージで)強制的に、無意味な強制労働とか運動とか、体罰がものすごく多くて。事故死で亡くなる方もものすごく多くて。
熱中症とか、暑い日にマラソン10キロとか、その後にあの5 km の水泳とか…
 
私が一番、平成のこの進化した時代に何をしているんだ??と思ったことが穴掘りだったんですね。延々、畑を作ると言われて、もう穴掘りをずっとさせられるんですよ。
 
ラソンとかした後だったので、もう体力もないし、思考も鈍ってきてしまう状態で、炎天下の中で延々穴掘りをさせられて…で、やっと穴掘りが終わったと思ったら、それを今度は穴を埋めろって言われるんですね。
 
その作業を延々していて、(いったい)この作業に何の意味があるんだろうと思って、大人になってよくよく調べてみたら、ナチスとかの収容所でもそうなんですけど、無意味な作業を延々繰り返すことでその本人のいろんな力を奪って思考停止に持っていくっていう方法だっていうことを知ってから…
 
施設を出てから、自分でアノ作業というのは何だったんだろうといろいろ調べていたら、そういう無意味な作業っていうものは、拷問に近いような洗脳というもので、その当事者の感情とか気力を他人がコントロールしていく方法っていう風(な意味)にたどり着いて、そこで意味がやっと理解できた。
 
それが体罰だったり虐待だったりっていう、言葉では片付けられないような、非現実的な人権侵害がおこっているということがその当時はわからなかったので、自分が悪い子だっていう風に自分を責めてばかり…
 
やっぱり入所した方っていうのは、みんな自分を責めてる方が多いので、自分が悪い子だからこういう罰をずっと受けなきゃいけないんだっていう風な認識で、やっぱり思考が歪むし、物事を冷静に考える力っていうのは奪われてしまうので…
 
 
わ)それを目的に行動させるんですね… やはり周りの人も同じように自分を責める方は多いですか?
 
楓) 自殺未遂をする方も多いし、ODする方も多いし、自傷行為をする方も多いし、そうしたことは私もしてきたんですけど、なんで手首を切るの?とかどうして自分をそんなにいじめるの?とかなんでそんなに自分を責めるの?って、色んな方に聞かれたんですけど。
そこに理由はなくて、いろんな理由がものすごくあるんですけどあるようでなくて、発作的にそういう風にしないと…自分の意識が冷静に保たないと言うか、(自分の安心を得る為の)発作的なものなので。
 
 
わ)人が自分に対してそんな暴力を振るわなくちゃいけないことが起こるっていうのは、そこに暴力がある以外何ものでもない。そこが優しくて楽しくて柔らかくてだったらそんなことして時間潰さないよ…
そこに行った子どもたちはたいがいなんかの苦難を経て、やもうえず入ったのに、そんなことになっているのはおかしいなとおもっていた?
 
楓) おかしいなって思ってたし、私は親がいないから…両親がいないから帰る家がないからこういう所に住まないといけないんだ…っていう風にずっと感じていて、それは私が悪い子だから親と一緒に住めないんだとか、いろんな感情があったんですけど。全部自分の責任だと思ってたんですよ。大人の都合とか大人の責任っていう部分には一切思考が回らなくて
 
その当時、両親が刑務所に捕まったっていうのは高校生になってから聞いた話で、中学生とか小学生の時は知らなくって、それでも周りの大人とか周りの子供からは犯罪者の子供だとかものすごく言われてイジメられてきたんですけど…差別もあったし。
 
施設内でも両親がいる子と両親がいない子で、子どもたちの中でカースト制というか、両親がいる子の方が上、みたいな暗黙の世界 、階級社会みたいなものが児童養護施設の中でできていて「お前ん家は母親しかいないだろう」とか「うちは両親揃ってる」とか「うちは両親の他におばあちゃんもおじいちゃんがいる」とか「兄弟もいる」とか…。比べても意味のないことを子供たちがやってるんですね。その中で生活していて、私の場合は両親がいないし、兄弟とも離れて会えないっていう状態だと、一番底辺なんですよ。だからものすごくいじめの対象にあってしまう…。
 
あなた達は認めなさい!っていうような言いぶりと言うか、子供の気持ち、私は言うことを言われて嫌だって言う気持ちも大人に伝えられないし、言ったもん勝ちっていうかいじめたもん勝ちになってしまって。いじめられている子供は「あなたも悪いことも悪い部分があったでしょ」「きちんと嫌だったら嫌だって自分の気持ちを言いなさい」とか言われるけど、嫌だって言ったら倍返しにあうから、もう「嫌だ」とも言えなくなっちゃってて、何回ももう嫌だ嫌だって助けを求めた職員にも「もうしつこい」とか「はっきり言わないのか悪い」とか自分(私)が責められてしまうんです。
 
(保護された時)私は悪名高いって言われている児相の一時保育所にいたんですけどそこの中でも児童同士の性暴力とかイジメとかがものすごくって、それを職員は把握しているんだけど見て見ぬふりをしてしまう、なかったことにされて、全部無かったことにされてきたんです。男の子から女の子に性的な暴力があったとしても「あなたの勘違いでしょう」とか「あなたの考えすぎでしょう」とか「嫌だったら嫌だって言いなさい」っていうことの無限ループというか…
 
その時は絶望しかなくて。一時保護所では学校にも行けないし、外出も自由にできなかったので、その時はまだ私も子供だったし、これが性的な暴力だっていうことに気づけていなかったっていうのもあるんですけど…。ただ「触られたり、あの子に洋服を脱がされたり、そういうことが嫌だ」っていう風に訴えていたんですけど、結局、そういうことっていうのが私だけじゃなく他の子供にも沢山あって、それを何回も目撃して、職員には「あの人ちょっとおかしい」とか「何かいろんなとこを私に触ってくる」とかそういうことをちょっと言葉がわからなかったのでそういう風に訴えていたんですけど、それも全部「気のせいだ」とか「あなたが嘘をついているんじゃないか」とか私の「妄想だ」とか、そういうふうに私が悪いという風に片付けられてしまうので…
子供のうちはもう反論もできないし、それが何なのかっていうのも理解できない嫌なことなんだけど、それが性的な暴力だっていうことがなかなかわからないと言うか。
 
わ)当時それがわかっていたら何か違っていたと思いますか?
 
楓)はい。そういった(同意なく)「人の身体を触る」っていうことがいけないことだとか、怒って断ってもいいんだ!っていうことを知っていたら、ものすごく強く反発していたと思うんですよ。
「これはダメなことだから。あの職員にダメだって言われていたから。もう私の体を触るのはやめてくれ」ってきちんとNOということをはっきり言えたと思うんですけど。
 
わ)伝えた大人が理解していなかったら環境は変わらないと思いますか?
  家の中だったら相談する先は外部に通報するけど…外部はまた児相に通報?
 
楓) そうです。だから結局、児童相談所の内部で相談しても解決はしないし、例えば、児童相談所から施設に措置決定が出た場合、施設に移って、学校にも行ける日もあるんですけど、じゃあ学校の先生に言ったから何か変わるかって言うと、学校の先生も、例えば「そこから逃げなさい」と言った場合、私みたいに帰る家がない子どもっていうのは、どこにも行き場がないから、結局は、公園でとか、図書館とか、そういったところで、野宿的なことをしたりホームレスになるしか選択肢がないから…
小さい子供とか小学生の場合っていうのはそれ(ホームレス)がもう本当に不可能に近いので、我慢するしか選択肢がないんですよ…
 
「嫌なら出ていけ」ってよく職員の人も言っていましたけど、出て行ったところで住む家もなければ保護してくれる大人もいないので、そこにいるしか選択肢がないんですね。
 
わ)そしたら、さっき言ったみたいに内側に暴力が向かったり、痛いことをしたくなったりするのもとても自然ですね…その環境の中にいて我慢するしかない耐えるしかないとしたら…
 
楓) はい。それでそういう風に思っていても、「死ぬことはダメなこと!」「悪いこと」「あなたが死にたいと思うのは異常だ」とか「あなたが誰とも口をきかないのはもう頭がおかしいんだ」って、ずっと言われ続けて来たからもう誰とも口をきかないという選択肢を取った時期もあったんですけど…
 
わ)環境がそうさせてる…
 
楓) はい。それで「頭がおかしい」って言われて精神病院に入れられて薬漬けにされて、今度は思考停止がものすごくて。薬の力で思考停止するので無気力な人間になってしまって。
 
小学校6年生の時からずっと中学生の時もそうだったんですけど、もう誰に話ししても、警察に「職員に殴られた」とか「性的なことをされる」って訴えても、警察ですらまた施設に電話をして施設の人が迎えに来て、結局連れ戻されて反省部屋に入れられたりとか…
 
その悪循環のループから抜け出せなくって「誰に言ってももう無駄なんだ」っていうことを子供の時にわかって。
 
わ)それは何歳から何歳ぐらいまで?
 
楓) 約2年。小学校6年生の終わりから中学校2年生まで。
 
わ)じゃあそこで、警察とかお医者さん看護師さんとか、出会う大人に話していたんだけれども、みんな打つ手がなかったということね…
 
楓) はい。結局私の場合っていうのは、引き取っていただける親戚もいないし、兄弟もいないし、おじいさんおばあさんもいたんですけど、結局両親の行いのせいでものすごい喧嘩をして、疎遠になってしまったんです。私が実家にいる時からおばあちゃんとかおじいちゃんがたまに来ていた事があって、その時だけ、なんか凄い幸せというか、ずっと一緒に住んでくれればいいのになと思ってたんですけど。
 
わ)彼らは楓ちゃんに優しくしてくれたのかな?
 
楓) 子どもたちにはある程度優しかったんですけど、今考えてみればやっぱりおじいさんとかおばあさんもちょっと暴力的な所があったなと思う。
 
わ)それでも子どものころは…
 
楓) そうです。何回もおばあちゃん達と一緒に住みたい!とか、あのもう家から出ておばあちゃんちにの子供になりたい!とか、何回も言ってたんですけど、大阪と東京でやっぱり離れていたので、中々難しい問題があったっていうのがひとつと、あとは経済的にも祖母の家が裕福だったかって言うと…今、考えればそうでもなかったのと、子ども9人引き取るって言うのは、かなり…通常の大人でも難しい話なんですけど、(祖父母の)年齢的にやっぱり体力もなくて、子供を育てられないっていう風に「ちょっと難しいんだよね」って色々言われてきてて。
 
施設の人に、おばあちゃんがいいっていいったら一緒に住めるのか?と、本当に聞いてくれたのかどうかは不明ですけど…
「おばあちゃん達が嫌だって!」と言われて。
そこでまた絶望するんです。
 
わ)ほんと、それじゃ絶望するよね。お話のなかでも、楓ちゃんはちゃんとSOSやニーズ、要望をだしてる、ずっとノックしている子どもだったんだよね。 なのに、我慢するしかなかった…
 
楓) 選択肢がもう我慢しかないんですよ。高校生ぐらいになれば脱走する子どももいたし、親の元に自分で帰るって言って無断で(措置)解約したり、もう施設に入らない!っていう人も勿論いたんですけど、そういう選択肢が私には取れなくて。
 
友達の家に遊びに行って泊まってっていうことや、無断外泊とかはしたことあるんですけど…
友達ん家にずっと居てもいいかって言うと、やっぱり友達の親御さんも「そろそろ施設に帰らないと怒られるわよー」とか「今日は施設におばさんが電話をしてあげるから今日だけは泊まってもいいけど、明日はきちんと施設に帰るんだよ」とかやっぱり言われてしまうので…
施設しか本当に帰る場所がなかったので、そこでまた耐えるしかなかった。
 
わ)18歳になって施設を出ることを希望に待つしかなかった…
 
楓) はい。施設から出れば天国が待ってるとしか思ってなくて、もう早く施設から出たいっていう気持ちで自分で働いてお金を得て自分で生活するんだ!っていうのがひとつの希望だった。
 
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―施設を出てー
 
わ)施設を出たら何が待ってると思っていた?
 
楓)私は施設を出たら、一人暮らしをして、いい仕事とプライベートの両立っていうものがきちんとできると思ってたんですよね。
友達と遊んでっていうのも自由だし、何時に家に帰っても自由だし、自分の好きなものを食べて自分が思いどおりになるような生活ができると思ってたんです。
 
私が施設を出るときに、施設から紹介された就職先に就職をするんですけど…
社会的養護の子供達っていうのはどうしても保証人がいなくて、保証人になってくれる三等親以内の親族がいない子とか親が拒否した場合っていう部分で…(大変)。
施設がきちんと保証人になってくれる施設もあるんですけど、私のいた施設っていうのは、一旦退所するとそこからは自己責任っていうものがものすごく強くて…
 
わ)一回施設を出たら自己責任なんだ… それは誓約書か何かあるの?
 
楓) 私がいた施設は、他の施設の友達に聞いたら…いつでも帰っておいで!って言われたって困ったことがあったらいつでも帰ってきて自由に電話をして職員に相談しなさいって言われたって言ってたんですけど…
 
私のところは自由に出入りができなかったんです。1回退所すると、例えば「施設に遊びに行きたい」って言っても部外者になってしまうので、きちんと許可を取って日程も決めてと、そういった手続きを踏まないと自由に帰れなかったんです。
 
私がその就職先を決めた理由っていうのが、会社の社員寮があったので、それで自分の保証人とかの問題を考えるとやっぱり社員寮がある会社っていうのが一番魅力的に感じたので、そこの寮に入って仕事をするっていうのが条件としてあったのでそこの就職先に決めたんです。
 
職員からの勧めもあってそこに決めたんですけど、就職してみたらものすごいブラックで…
給料も9ヶ月間もらえなくて、お小遣いと称して2ヶ月ぐらいに一回3万円とかもらえる程度で、朝の7時に行って…
新人っていうのは朝の7時から夜の11時くらいまで残業して掃除とか後片付け、先輩たちの仕事の段取りとか全部つけないといけないっていう風に言われていたので、ものすごくも大変だったんです。
 
わ)何もわからないから、いろんなことを覚えて行かなきゃいけないし、でも相談する相手もいないって…大変でしたね… 何ヶ月ぐらいでやめたの?
 
楓) ちょっと耐えられなくなって、施設に電話をして「会社を辞めたいです」「お給料ももらえないし」って言ったら、「社長に聞いてちゃんと相談して聞きなさい」って言われたんで、社長に「私の給料はどうなってるんですか?」って聞いたら「家賃と光熱費とあと保険各種保険で引かれてお前の給料ない」って言われたんですよ。
で、食費もそこは社員寮で食堂にきちんと申し込みをしていればそこで食事ができたので、それは給料から天引きされるっていうふうに聞いていたのですけど、食事もあって住む家もあって、きちんと、冷蔵庫とか洗濯機とか必要なものも全部揃っていたんですね。だから「そこまで揃えてあげてお前のためにいくら金を使ってるんだ」と言われて…
私は社会的にそういうもんだと思ってしまって。全く知識がなかったので…大人達が「仕事が大変」って言うのを聞いていたし、仕事って大変なんだなって思うしかなくて…
 
わ)こういう環境のことを大人たちは「仕事が大変」と言っているんだ、と思ったんだね。
施設を出たいと思っていて、いざ出てみたら… 
 
楓) 結局は、全て私の無知に繋がってしまうんですけど、社会的なことを何も知らなくて、あのブラック企業が何かとか、たとえば大人の仕事の仕組みとか、業種は違えどどういった仕組みでお給料が入るとか、そんなことも知らなかったから。
 
友達にもおかしいと言われたんですけど、そのおかしいっていう部分が何がおかしいのか、あまりにもおかしいことが多すぎて、(私の)頭がおかしいのか?(混乱して)わからなくて、「そんな会社無理無理無理」って友達に普通に笑って言われたんですが、やめなよ!って言われても、今すぐ辞めたら住むところがないからどうしようって、ずっと悩んでて…
結局9ヶ月になってしまって。だんだんやっぱりメンタルも崩しちゃって、ある時、発作的に自分の荷物をまとめて逃げるように飛び出して。部屋に手紙だけ残して。謝罪の手紙とすみませんでしたっていう風に、自分が悪いと思っていたので。
飛び出して、最初は多少お金があったのでネットカフェとかそういうところで泊まったり友達の家に行ったりとか、食事も自分で買ってっていう風にやってたんですけど、だんだんやっぱりお金もなくなってきてってなって。
無理に友達の家に行ける時は良かったんですけど、もうどこにも泊まれないってなった時に、やっぱりホームレスっていう選択肢を取るしかなかったので。その時に生活保護っていうものは何となくは知っていたんですけど、それがどうやったらもらえるのかとか、どこに行けばもらえるのかっていう知識も全くなくて。
 
で、私は自分が悪いと思っていたので、施設の職員に会社を辞めて飛び出してしまったっていうことも後ろめたくて言えなくて。
私が耐える力がなかった我慢や忍耐が足りなかったっていう部分で、自分が悪いんだと思ってたから、相談ができなくなっていたんです。
 
 
 

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エンパワーメントとはー『新・子どもの虐待 生きる力が侵されるとき』より

岩波ブックレットNO.625 『新・子どもの虐待 生きる力が侵されるとき』森田ゆり

****** 参照  P24.4 エンパワーメントとレジリアンシー   *****

 

生きる力のみなもと

 

エンパワメントは人権と不可分に結びついた考え方です。

その考え方は、人は皆生まれながらにさまざまの素晴らしい力(パワー)を持っているという人間観から出発します。

 

そのパワーのなかには、

自分を癒やす力、降りかかってきた問題を解決する力、そして個性という力もあります。

 

生まれたばかりの赤ちゃんには、

生き続けようとする生理的力があります。

人とつながろうとする社会力があります。

赤ちゃんは泣くことで生きるニーズを発信し他者とつながろうとしています。

それに応えてくれる他者との身体的接触、視線の交換、情動の交流の心地よさなど通して

自分の存在の尊さを確認していきます。

その他にも、赤ちゃんはその子にしかない個性という力・パワーを持っています。

 

この赤ちゃんの存在の中心には、目で見ることはできないけれど、たいへん重要な力が内在しています。

それが人権という生きる力です。

※日本語の手話では人権を人の力と表現します。

 

人権とはまさに人の生きる力です。

人権とは「わたし」が「わたし」であることを大切に思う心の力です。

わたしのいのちを尊重し、他者のいのちを尊重する力です。

 

赤ちゃんは自分の存在の大切さを言葉では認識していませんが、まわりの人から受け入れられ、大切にされる安心感と心地よさを感じることで自己肯定感を育てていきます。

そして潜在的に持っているさまざまの力を豊かにしていくのです。

この、「わたし」の、もろもろのパワーを育ててくれるのは、

「わたし」を条件ぬきで、まるごと受け入れてくれる他者との信頼関係です。

 


外的抑圧と内的抑圧

しかし残念なことに、現実はこのような受容の関係ばかりが子どものまわりにあるわけではありません。

自分の持つもろもろのパワーを傷つける外からの力に、わたしたちは次々と出会っていきます。

外からの力は、必ずしも、むき出しの敵意や悪意に満ちた抑圧として子どもに向けられるわけではありません。

外からの抑圧のもっとも卑近な例は「比較」です。

比較は幼少の時だけでなく、学校で、受験競争の中で、職場で……と一生わたしたちにつきまとい、わたしたちの本来のパワーをそぎ落としていきます。

 

「条件付きの親の愛情」もこのパワーを傷つけます。

もろもろの差別や偏見も本来のパワーを奪っていきます。

 

虐待、体罰、いじめ、レイプ、両親間の暴力を目にするなどの暴力の最大の残酷さは、

あざや身体的外傷ではなく、

被害者から自分を大切に思う心と自分への信頼を奪うこと、

自分の尊さ、自分の素晴らしさを信じられなくしてしまうことにあります。

人権という生きる力を奪うのです。

 

外的抑圧は、比較、いじめ、体調、声待とさまざまな形をとりながら、

共通するひとつのメッセージを人に送り続けます。

それは、「あんたはたいした人間じゃないんだよ」というメッセージです。

 

人はしばしばそうした外からのメッセージを信じてしまい、

みずからを抑圧してしまいます。

 

それを森田先生は「内的抑圧」と呼ぶそうです。

 

しかし、わたしたちは誰でも皆たいした人間なのです。

「あなた」はただ「あなた」であるだけで、もう充分にたいした人間です。

生きたいという生命力を持ち、人とつながって生きようとする力を持ち、女である、男である、障害があるないといったあなたならではの個性を持った、かけがえのないたいした人間です。

 

エンパワメントとは、このような外的抑圧をなくすこと、内的抑圧を減らしていくことで、本来持っているもろもろの力(生理的力、人とつながる力、人権という自分を尊重する力、自分を信頼する力など)を取り戻すことです。

 

外的抑圧をなくすためには法律、システムの改革が必要です。

社会の差別意識や偏見を変える啓発活動も不可欠です。

 

内的抑圧をなくすためには、社会から受けた不要なメッセージをひとつひとつとりのぞいていき、

あなたの存在の大切さを体得していくことです。

エンパワメントとは、誰でもが持っている生命力や個性をふたたび生き生きと息吹かせることです。

 


レジリアンシー(弾力性)

外的抑圧のまったくない環境などありえないし、

抑圧ではないにせよ、人間関係に葛藤や対立はつきものですから、

子どもも大人もさまざまなストレス源に出会っていくのが現実です。

こうした外からやってくる抑圧は、時には人の内に深く侵入して、

内的抑圧となって自尊感情を低め、健康に生きるさまざまな力に傷をつけてしまうこともあります。

 

しかし、いつもそうなるわけではありません。

なぜなら、人は外的抑圧をはね返してしまう力も持っているからです。

抑圧がいったん内側に侵入して、心の内に傷をつけられたとしても、

私たちはその傷を自分で癒やしてしまう自然治癒力を持っています。

 

このような力のことを英語ではレジリアンシー(弾力性)と呼びます。

リカバリー(回復)をもたらす原動力といってもよいででしょう。

 

わたしたち誰もがレジリアンシーを持っています。子どもたちもその力を持っています。

ところが実際に問題の真っただ中に立たされてしまうと、自分の力に気がつくことができなくなってしまう。後になって思い返してみればいろいろ解決方法はあったと思えるのに、その時は何をしてもどうせむだだと思い込んでしまってただうずくまっているだけになってしまう。

援助とは、相手が自分のかけがえのなさに気づくよう働きかけ、内的抑圧の方向を逆にするように力を貸すことで、レジリアンシーの活性化を願うことです。

 

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ギフトのワーク

 

<ギフト の ワーク 手順>

①役割を決める

Aさん: 受け取る人

Bさん:渡す人 (複数名可)

 

②言葉を決める

Aさん:Bさんから「言ってほしい言葉」「かけてほしい言葉」を決めてBさんに伝える

 

③場面設定

Aさんは椅子に座る。 BさんはAさんの正面で(膝を曲げるなどして) Aさんに目線を合わせ、Aさんの両手をとる。

 

④言葉を渡す

BさんはAさんから教えてもらった言葉をAさんにまっすぐ渡す(伝える)。 

Aさんは受け取る。

 

⑤AさんとBさん交代。同様に行う。

 

※グループの場合、Bさん役複数で行うのも効果的です。

 

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