empower channel #7 根来さん(30代)後編 インタビュー書きおこし
empower channel #7 根来さん(30代)後編 インタビュー書きおこし
★根来さんは『虐待イベント』で朗読をしてくださった「九条ネギ」さんです★
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ーあの時必要だったもの・どうやったら自分が助かったと思うかー
当時を振り返って、あの時必要だったもの・どうやったら自分が助かったと思うかって、自分でもよく考えるんですけど、周りの人が特に何もしてくれなくてもいいけどせめて情報が欲しかったっていうのは思います。
何が虐待か・何が家庭内暴力か気づくきっかけというのがあったらなーって思います。
家の中にずっと閉じ込められていたわけではなくて、病院だったり学校だったり図書館だったりっていう場所には入ってるんですよね。
そこで自分がされていくことに気づくきっかけ、例えばパンフレットだったり本だったりそういったものがあれば、私は気づけたんじゃないかな、っていう風に思います。
当時はやっぱり情報があまりにも少なすぎたし、私の周りは身体的暴力を受けてる友達っていうのも、今思うと結構多かったんですね。
で、今私がこの歳になっていろんな本を読んで、思い返せば、例えば家族に迷惑をかけてるって言う友達がいたんですね。何か・・物を取ったり、なんかバイクを盗んだり、バイクで事故したりとかってして。それで「家族に迷惑かけてる」って言われてて。よく考えたら、その子の両親っていうのは、お父さんの方がアルコール中毒でその子も結局殴られてて、お母さんも殴られてて、それはその子なりの反抗だったと思うんだけども、そういうこととかは何も気づくことができなくて、私も話を聞きながらも、できなくて「ひどいね」っていうような言葉をかけるしかなくて。
そういう人たちがみんなで集まって慰めあうようなことしかできなかったんです。
だから、なにかあの時、『家庭内暴力』だったり『虐待』とか『 DV』 だとか、そういう『機能不全家族』だったりとかっていうことに関する教育、知らせるような何かがあったら良かったんじゃないかなと思っています。
ー非身体的暴力についてー
私も母親も父親から身体的暴力も振るわれていて、身体的暴力だけで考えても、母親は暴力を振るわれていたんですけど、非身体的暴力・精神的支配だったり、無力感・絶望感、罪悪感を植え付けられたことのほうが、後々に影響を、もっと長い間影響したし、
非身体的暴力があったから、暴力を振るわれても逃げられなかった・・っていう風に思っています。
私もなんですけど、母親も仕事をしていたんだけども、「そんなくだらない仕事」みたいな感じで言われたり、仕事をしていなかったらしていなかったで、やっぱり私も母親もそのことを責められたり。 そういう、日常的に自分の「自信」だったりっていうものを奪われていくっていうことがあったと思います。
精神的暴力っていうのは、すごく実はとても強烈で。身体的暴力っていうのは、外傷は目に見えるんだけど、そして時間が経ったら表面的に癒えるものも多いと思うんです。
けれど非身体的暴力、その支配的な言葉だったり、自分を否定するような言葉の表現だったり、そういう物っていうのは、そういうものによって身についた思考の癖だったり、生活習慣とかだったり、自分の存在への生きることへの罪悪感っていうのが、すごく深く染みついていて・・
それがある限りは、やっぱり「逃げる」って言うことができなくなるんじゃないかなって思いますね。
私の場合は感覚麻痺もあるんですけど、暑い寒いとか痛いとかっていうのがもう一時期全然わからなかったんですよね。
やっぱり我慢に慣れてるっていうところもあって、今も、もう親から逃げて結構時間が経つんですけど、やっぱりエアコンつけることに抵抗があったり、エアコンつけようとしたら、やっぱり「金の無駄遣い」と言われたような言葉が頭の中で繰り返されるような事っていうのがあるんですよね。それを一個一個打ち消していくような毎日を、今もまだ、送っています。
ー野田の事件ー
それを考えた時に、前にテレビで見て「あ、これだ」と思ったのが、目黒で5歳の女の子が殺された事件、野田の小4の女の子が殺された事件のニュースを見た時に「これは私と私の母親の話」だって思ったんですね。
あのニュースを見た時、ご本人とか、家族が、病院の医師とか役場の窓口の担当の人に「暴力を振るわれている」って言っても、暴力自体は軽いものだったみたいなんですけど、でも連絡先を消されたとか、人付き合いとか食べ物や睡眠が制限されたとか、「お前はブス」だとか「馬鹿」だとか「太っているとか」っていう言葉をずっと言われていてお母さんが逃げられなかったお話を聞いて・・
まさにこれだなって。
これは私と私の母親の話だっていう風に思ったんですよね。
そのことを医師だったり、役場の窓口担当だったりという専門の人に話したのに、相談したのに、DV だと気づいてもらえなくて・・。 そこでこのお母さんを救うっていう話にならなかったっていうのが、私としてはとてもショックでした。
このままだったらうちの母親みたいな親だったり、私みたいな子どもだったりっていうのは、やっぱり、これからも救うことができないと思うんですね。
外傷がひどい子供たちを救おうだったり、外傷がひどいお母さんとかお父さんとか親だったり、外傷がひどい人だけを救おう、ということだったら、やっぱりこれからも(みんな)救えないと思っていて。
私が親から逃げる時、私に情報をくれた人たちっていうのは DV 被害者の方が多かったんですよね。その時にいろんな制度・・『DV 防止法』の事も少し教えてもらって、やっぱり日本の DV 防止法って遅れてるんだなーって、そういうことを自分で気づいてもらえないんだなーっていうことが分かって、私はとてもショックを受けました。
ー「家族というもの」についてー
もう「歪(いびつ)」というか、もう「家族として機能していないのに家族という形にはめないでほしい」「家族であり続けさせようとしないでほしい」って今は思います。
私にも一応両親がいるんですけど、あれは’お母さん’とか’お父さん’とかそんなんじゃなくて、生物学上の父母なんですよね。もう、そういう風にしか私には思えないんだけども、「大事な一人だけの、世界にたった一人だけのお父さんお母さん」とかって・・。
そういう意味づけをされるのが本当に嫌だし「お父さんお母さんの愛情を知らないと欠落した人間・何かが欠落したダメ人間」みたいな・・、何か足りない人間みたいなこと言われるのが本当に私は嫌です。
「親の愛情を知らない」っていう風に言われたりもするんだけども、そういうのって私にとっては別にもう「最初からなかったよ」みたいな感じで。「ヨーロッパ貴族の娘に生まれたかったけど、まぁそんなこと言っても仕方ないじゃん」みたいな感じなので、別に私にとってはそこは大事ではないんですね。
自分はホームドラマに出るようなあったかい家っていうのは別にそこまで大事じゃないんですよね。 すごくめんどくさいです。
それによって抱えている難しさっていうのはある。例えば、自分のパートナーにどういう言葉をかけるか、どういうイベントをするかとか、なんかちょっとぎこちない時にどういう言葉をかけて環境を良くしていくか、という、そのお手本が少ないのは、ちょっとネックかな、っていうふうには思うけど、それは別に、うちの両親から学ばなくても、他のカップルだったり、別のご自宅別のご家族だったりをモデルとして学ぶことはできるというふうに思ってます。
あと現実的なところで言ったら、結局、両親と絶縁して何が困るかって言ったら、
保証人がいないとか、支援措置を毎年かけないといけないとか、入院ができない・・、できないこともないけどやっぱり入院する時とかに「ご家族の連絡先は?」とか言われたりっていうのも、すごく面倒くさいです。
両親の愛情を知らなくても別に毎日楽しく暮らせますので、どうぞ皆さん心配しないでください。
ー周囲の人・非当事者へー
周りの人とか、非当事者の人、今苦しんでない人も、こういった事っていうのを知識として学んでおいてほしいなって思います。そして情報提供してあげてほしいです。
私もそうだったんですけど、私が逃げるきっかけになった時っていうのも、ネットで全く見ず知らずの人が「あなたがされてること、あなたとあなたのお母さんがされてることは、DV・ 虐待です」って言ってくれてホームページだったり、情報であったりっていうのを送ってくれたんですよね。それだけで本当に私の後の人生ってのも変わったので。情報っていうのはとても大事だと思っています。
自分がいきなりその場に行って、最後までその人の人生の全てを救う必要はないので、
せめて、そういう風に苦しんでいる人がいたら、声をかけたり、「あなたの受けていること・あなたがされている事・あるいはあなたが苦しい原因って、もしかしてコレじゃないですか」って言うな感じで、「 DV」 だったり「虐待」だったり「機能不全家族」だったり、そういう情報っていうのをその人に教えてあげて、伝えてあげてほしいなと思っています。
これは私が言った言葉じゃなくて、路上生活支援をしている人が言っていた言葉で、よく思い出すんですけど
【どこかに大きな太い命綱が一本あってもそこに繋がれない人は助けられないんです。でもたくさんの細い紐がいろんな所にあったら、それを頼りにその人が自分で助かることができる。必要な支援を受けたり自分で助かることができる。】
というふうにおっしゃってて、そうだなって思うんです。
虐待死事件とか見てとっても憤りを感じたり、本当に胸を痛めたり、っていう優しい方っていうのは、いっぱいいると思うので・・どうか学んで、そういう困っている人に、情報を与えられるように学んでいただきたいなと思っています。
ー仲間へのメッセージー
自分と同じような体験した人に向けてというのは・・
そうですね。ひどい人間もいるんですけど、優しい人もいっぱいいるな・・ていう風に思ってるんですね。
私の場合は、もう、生まれた時に家の中にいた自分の親がラスボスみたいな感じで・・
逃げた後に出会う人のほとんどが優しいくらいの気持ちなんですよね。
すごくそれは衝撃だったんですよ。
本当に「もういつ死んでもいいや」ぐらいの気持ちもあったんですよね。でも、今は、やっと「死ぬのが怖い」って思えるようになったんです。
昔は本当に好きな時に好きなものを食べるとか、暑い・寒いとかを感じたりとか、鼻歌を歌うとか、好きな服を着るとか、化粧をするとか、好きな音楽を聴くとか、そういうことが全然できなかったんです。
でも今はそういうことをしてる自分に気がついて「夢みたい!」って本当に思うんですよね。
だから、たぶん、大丈夫。 だから、どうか、幸せになってほしいなって思います。